<黒羊羹について>
昭和43年 第17回全国菓子大博覧会金賞受賞
厳選した北海道産小豆と沖縄多良間島の黒砂糖を使い丁寧に練り上げました。
固いものでなく、やわらかいものでもないながら、それでいて確かな歯ざわりを感じさせる羊羹です。
何も菓子はたべないという友人があります。そんな意固地を私は内心大いに口惜しがるのですけれども、 がんとして手にふれない人だと思うと、勝手になさいという気がして、お茶だけをさし向かい。
というような困った友人が、何かのときに「黒羊かん」だけは、とふと洩らしました。
この前書きは、最上屋の黒羊かんを書きたかったからです。
やはりこれだけの太棹が先ずよろしく、黒糖はよほど吟味されているようです。
あの、ずっしりと重い棹ものに包丁をあてるときの心のときめき、目分量というようりは心で寸法をとるような瞬間のためらひに、羊かんを味わう幸福感がある気がしますが、最上屋のものは刃ごたえ十分で、その切れ心地にすでに私は、これならあのむずかしやの友人に、自慢でわけてやれる気がしたものです。
幸便あって、私は一本をそこへ届けさせました。白状しますと、二本は惜しくて、わけてやったのは1本で、けちな私を後ろめたく思っていたところに、友人からの消息です。
「つい感冒、身動きならず、あなたはとても来て下さるまいし-来てはいけません-しかし、あの黒羊かん、たしかにあと半本は残っていると察します。あれだけ下さい」
私は心のうちで、風邪万歳といいたいほどでした。なんという満足さでしょう。
あの菓子嫌ひに、この羊かんをやれるということは。(新潟日報より所載)
一ねり前でも、いま一ねり過ぎても、しっくりと参らないのが、黒羊かんの味でございます。
羊羹の「いのち」は、ねりあげつつ、この時をとらえ、はかる、職人の勘と加減のほどにあると申せませしょう。
手に取って、しっとりとくる重量感、固いのでもない、やわらかいのでもないながら、それでいてたしかな歯ざわりを感じさせる羊羹は、生きものでございます。
精選いたしました黒砂糖、蜜、小豆の素材に、いきいきしたいのちを吹きこみ、小豆でも砂糖でもない、作られた豊かな甘味に仕上げるのが、当店の暖簾であり、また、いのちでございます。
こんな点からでしょうか。
俳人中村汀女さんは「越後うまいもの」随想に、私共の黒羊かんを前掲のようにふれて下さいました。
最上屋では、今日も、ひたすら誠実に、この民芸にも似た手づくりの心くばりを暖簾の味として生かし続けておるのでございます。
どうぞ、お味わい下さいまし。
店主 敬白
■賞味期限:30日
※本工場では、小麦、卵、乳を使った製品も製造しています。